四.
“アイアン“
元CIA情報部員。
柳田が冷戦時代末期にマークしていた、旧東独系商社の日米双方の活動情報を交換していた事から、徐々に関係を築くようになった。
その後、アイアンは南米局の担当となり、コロンビアで活動中に左派ゲリラの襲撃を受けて負傷、表向きはリタイアとなった。
柳田は彼の本名も経歴も知らない。
“アイアン”と言うコードネームだけしか知らない。
しかし冷戦終了後、柳田が対旧ソ・東欧諜報機関の担当から国内の破壊工作集団の内偵に異動してからは、テロリスト集団と化した宗教団体、エルム聖道教のアメリカでの活動内容を細かくアイアンからの情報提供を受け、後に、公安調査庁の職員では手にできない程の大金を得てからは、柳田の専属に近い情報提供者になった。
そして柳田は何年も前から、私的にアメリカで、ある人物をアイアンにマークさせていたのである。
そのアイアンが死んだ・・・
彼の妻と名乗る人物からの、その死だけを伝える、短いメールだった。
アイアンに何が起こったのか?
その人物と何かあったのか・・・
いや、それも違う。
何故なら、マークというより、見守ると言った方がいい仕事内容だったからだ。