「携帯の中って・・・」
夏菜は右手に握られていた携帯電話の在を確かめた。
そして、目の前に居る少年に目を向け直した。
「携帯電話の中の世界。お前住みたいんだろ?
だから今ココにいるんじゃねぇか。」
「・・・へ〜。」
「お前変わってるな。」
「何が。」
「初めてココに来た奴らはそんな風じゃなかった。」
「・・・何が言いたいの。」
「お前が変わってるという事だ。」
「あっ、そ。」
少年の偉そうな態度に無駄な感情を抱く事も無く、
夏菜は自分でも信じられないほど落ち着いていた。
辺りには、まるで人々が想像しているあの世のような花畑が広がっていた。
けれど、地についている左手に、草の感触は無い。
「ここはバーチャルの世界なんだよ。本当はなぁんもねぇの。」
少年が夏菜の考えを悟ったかのように言った。
「色々訊きたいことがあるんだけど。」
「どーぞ。オレに答えられる範囲でな。」
「アンタの名前は?」
「春永 コスモ」
「日本人?」
「父親は な。訊きたい事はそれだけか?」
「急いでんの?」
「いや、訊きたい事がある。」
「んじゃあどーぞ。私の答えられる範囲で。」
コスモが発する質問は、真剣な物ばかりだった。
両親はこの事を知っているか、元の世界に戻りたいと思っているか、
実はこの世界の事を知っていたか。などなどだ。
これ等の質問の答えは全てNOだった。コスモは尋ねた。
「なぜ、元の世界に戻りたくないんだ?」
夏菜は決心したかのように、自分の「今」をコスモに伝え始めた。
〜続〜