左を見れば体よりも大きなコンクリートのかたまりを片手で運ぶ道路工事の作業員。
右手のカフェのウェイトレスは、大量のカップや皿をフワフワと宙に浮かせて運んでいる。
上を見れば、郵便配達員が空を飛び、遅刻しそうなサラリーマンが瞬間移動を繰り返している。
これが“九州特区”の日常の風景だ。
全ては20年ほど前に遡る。
当時、日本には“バカなマッドサイエンティスト”がいた。
本名は授業で習った気もするが忘れた。
だが、自分の事を「天才科学者」と呼び、「人の革新」なんてモノを目指すようなヤツは、「バカなマッドサイエンティスト」で充分だ。
その「バカ」がある日“新薬”を開発、発表した。
それは大まかに言うと、妊娠中のツワリや貧血を抑え、更に胎児の健康的な発育を促す…というものだった。
この薬はまたたくまに世界中に広がっていった。
母体への効能もさることながら、この薬を使用すると流産・死産がほぼ0に、先天性の疾患をもつ子供の割合も0.01%未満に抑えられ、更に「バカ」が特許権を放棄したことも拡大に一役かっていただろう。
しかし、数年後に事態は急変した。