僕は春の日差しが淡く差し込む路地を歩いていた
向かっているところは・・・
いや、僕はそこへ行こうか行かまいか迷っている
そう・・・向かっているところは・・・・・・
僕の名は、柿崎 翔(かきざき・しょう)
昨年、医大へ進学するために上京して、一段落したところでたった今、帰ってきた
・・・実のところ、一段落すらついてなかった
都会の空気に飲まれ、生活に疲れて帰郷してきただけだった
そんな僕も一年前の今頃は・・・
時間はさかのぼり、高三の始まったあの日
僕は教室を見渡す
知っている奴もいれば、全く顔すら知らない奴もいる。
自慢じゃないが、僕はあまり交友が広い方ではない
どちらかというと、大人数でわいわいやるよりは一人か二人と趣味の話や馬鹿話をする方が好きだった
今日からいよいよ高校生活最後の一年間が始まるというのに話せそうな奴が一人もいない
チラリと僕は隣に座る奴を見る
チャラチャラした、いわゆるかっこつけの男が座っている
周りにはぞろぞろと似たような格好をした連中が集まっている
反対側も見るが、そこには三人でぼそぼそとしゃべっている女子達がいる
正面の席の奴は、うつ向いて何かをつぶやいている
真後ろの奴は、僕が見ると文句を付けてきた
右ななめは・・・
という風に、ありふれた教室の図がそこにはあった
僕はもう一度それを見渡して、ため息をついた
しかし、僕はこの時点では、彼女の存在を知らなかった