神聖バイロード帝国の誕生後、帝国各地には反乱軍の壊滅と首謀者の捕縛を目的とした部隊が派遣された。彼らの目的は各地に潜伏する反乱軍の残党を見つけることであったが、実際はそれを名目に村や町を欲望のままに蹂躙し、反抗的な村は反乱軍に荷担するものとして焼き打ちにした。かつての秩序は崩壊し、力無き民衆はただ神に祈ることしかできなかった。
アスレイアの首都ラスカリスからイストリアへと続く街道のちょうど中間地点に位置する町ハーバはかつて芸人、踊り子たちが集まり、旅人達の疲れを癒す宿場町として栄えていたが、今やかつての賑わいもなく、反乱軍討伐部隊が我が物顔で闊歩する町になっていた。彼らは近いうちに起こるイストリア進攻に向けて、街道の治安を守る事を目的としながらも、辺りの町を手当たり次第に荒らし回りる有様だった。
そんなある日、ハーバから少し離れた小さな村で娘を差し出せとせまった兵士を父親が殺してしまうという事件が起きた。討伐部隊の長はそこに反乱軍がひそんでいるにちがいないと断定し、300人の兵士を引き連れ村へと向かった。討伐部隊がやってくる事を知った村長は兵士を殺した父親を差し出し、許しを乞うことを提案した。娘は泣きながら抗議したが、ことここにいたってはそれ以上の方法がないのも確かである。村を守るのも村長の役目であり、他の村々の様に焼き打ちなどにあうわけにはいかない。
村人たちもそして父親も覚悟を決めるしかなかった。そんな中、村の集会場へ一人の少年が現れた。昨夜ふらりと村にやってきた少年。年の頃は12、3歳で外見もこどものそれであったが、体中の傷とぎらつくような目、そしてなによりその身の丈と同じくらいの大剣を背負った姿は異様でもあった。少年は自分は傭兵であり、首都ラスカリスへの旅の途中だが一夜の宿を借り受けたいと村長に申し出た。最初は事件直後であり、得体の知れない子供だと追い出そうとしたが、少年が首からかけていた紋章がそれを許さなかった。それは神追いの紋章と呼ばれるもので、国に関わらず神の奇跡を追い、同時に魔の討伐を義務ずけられたものだけがもつことを許された紋章で、それを持つものはまた、権力に縛られず、また村や町は協力を惜しんではならぬと定められていた。
村長はしぶしぶ村の古びた空き小屋を貸すことにしたのだった。
少年は屈託のない笑顔を見せ、自らの名をブレイド=ロアと名乗った。