名前も知らなかった。
どんな人かもわからなかった。
ただわかる事は、同じ部活の部長というだけだった。
部員からの信頼もあつく、温厚で明るい。
自分とは対照的なその人を私は好きになってしまった。
限りなく消極的で、限りなくネクラな私は見てるだけで幸せだった。
彼が笑顔で話を進める。
彼が笑顔で体を動かす。
私の目や脳は腐っているに違いない。
毎夜毎晩彼の事を考え、彼の周りは薔薇が舞っているように見える。
彼を見ている間は、精神が病んでいる人の様になっているに違いないと思いながらも、私が彼を見る事をやめなかった。
だって、好きなんですから。
友達の「芽衣(めい)」が何を根拠にしたのかはわからないが、いきなり恋愛話をしだした。
自分には好きな人がいて、その人を見ていると眠れなくなる。
という発言に共感したかった気持ちがあったのだが、もちろん自分にそんな度胸はなかった。
「え!?誰?」
口を開いたのは、渚(なぎさ)だった。
体を乗り出して、ねちっこく聞いて来る渚を、少し控え目に頬を染める芽衣は口を開く。
「え〜・・・誰にも言わないでよ」
随分軽いモノだ。
「・・・部長?」
渚も私も一瞬表情が固まった。
渚は少し俯き気味に、無理に笑顔を作った。
「マヂで!?やるね〜」
感情のこもって無い声を出す渚を私は見てられなかった。
そして、私は悟った。
今までの渚の行動を見てて、鈍感な人でも気付く。
渚も部長の事が好きかもしれない。
部活が終わった後、私は渚に呼び出された。
「呼び出し?怖いね〜」
など冗談を言いながらも内心気付いてた。
「あのさ、木実(このみ)黙ってて欲しいんだけどさ。」
言われなくてもわかってる。
私は浅く頷いた。
「私も部長好きなんだよね」
予感的中。
普段から濁った目をしてる私の目は、より一層濁った。
絶望。憎しみ。殺意。失望。
そんな言葉が私の頭をよぎった。
無理に笑顔を作って私は、
「わかった」
と、相槌を返した。
頭がぼやける。
よりによって一番仲の良い友達と被るとは。
あはははははははははははははははは。
やばい。
どうしよう。
別に困る事なんかないけどどうしよう。
いや、どうすればいい?
どうすればいいのかな。
「・・・ねぇ」
教えてよ。