冷たい風が顔をつきぬけていく。坂の脇には線路が延々とのびており、今にも引き込まれそうなほど透き通っていた。町が静かに朝の陽気を受け入れている景色はまるで宮崎映画にでてきそうな感じだった。
坂を下りきった先のバス停で始発のバスを待つ。こうした間も寒さで手は悴む。俺は少しでも温かさを保つために制服のポケットに手をつっこんだ。すると、なにかフワフワした感触が俺の手をつつみこんだ。
「手袋…。なんであるんだろう…」
おもむろに取り出したのは3年前、彼女からプレゼントされた手作りの手袋だった。だいたいポケットに入れた記憶もないし、第一、何故3年前のものがでてくるのか、不思議に思っていた。母さんがいれたのかなとあまり想像したくないことを考えていると、頭の中で2年前のあの彼女と過ごした日々が走馬灯のように頭を駆け巡った。