午前二時。
戸を叩く音で目が覚めた
「空けろー!」
それは聞き慣れた父の声だ
父は浮気をしている
家族中が知っているが
今の生活がなくなることが恐くて
知らないふりをしている
ここ最近咳のとまらない母を
守らなくてはならない
とは思う
昨日窓のドアを閉めたのは僕だ
おかしいと思った
お風呂場から外に通じるドアの前に
誰も通らないはずのドアの前に
枯葉が落ちていたんだ
そして父もいなくなっていた
僕は迷わずそのドアに鍵をかけた
母に伝えると母は力なく言った
「私顔をめちゃめちゃにするって言われたのよ。恐いから鍵はあけて置きなさいよ」
僕はあけるつもりなんてなかった
玄関から帰ってくればいいじゃないか
やっぱり平和なんて無かった
明日会社の僕と姉と
受験生の弟と
はかない母は
布団の中で
ろれつの回らない大声と
揺らされる家に震えた
こんな夜は
消えてしまいたい
もう待っている未来なんて
たかがしれている