衛藤は一度、柳田から目を離して間を置いた。
手にした紙コップのコーヒーを口に含み、穏やかな、しかし、重い口調で話を続けた。
「柳田、君は我々の組織の中で“エース”と呼ばれた人間だ。だから、君の能力は私も高く評価している。
だが、過去の汚点を消す事はできない。
つまり、君を表立って、公安の人間としてアメリカへ行かせる事ができない。
従って、君をイリーガル(非正規職員)、一般人としてアメリカへ行かせる。
公安調査庁の人間としては、真矢と鹿井を派遣させる。彼等をアシストしてやってくれ。いや、実際は彼等が君のアシスタントになるだろうがね。」
柳田は、緊張した面持ちで、しかし充実した気持ちになっていた。
“闘志”というものだろうか。
衛藤が最後に付け加えた。
「そう言う事なので今回、我々公安調査庁としては、万が一の場合、君の身柄・身分の保証は最低限度しか保証できない。いわゆる、一般の日本国民扱いだ。
当然、CIAにはイリーガルを潜入させる事は連絡済みだが、NIS(韓国国家情報院)の連中は何も知らないから動きやすいだろ?
NISのマークは真矢と鹿井が引き受けるから、可能な限りの、情報を集めてくれ。」