龍と狼28

武藤 岳  2007-10-24投稿
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衛藤は話し終わると、柳田の目をじっと見つめた。

衛藤の深く、熱い目が柳田の動きを止めた。

過去の汚点が柳田の背中に乗る日までは、柳田は衛藤直属の部下だった。

そして畠田は、その柳田の部下だった。

共に、共産勢力から日本を守る為に戦ってきた。
衛藤なら信じられる。

柳田の心が呟いた。

『イリーガル』

今まで自分が使いこなしてきた立場だった。

だが、今回はそちらの方が有難い。


柳田は衛藤の目をしっかりと見つめ返して、言った。

「行ってきます。」




五.

暑い夏空、照りつける太陽に、急上昇する気温を更に煽るかのような、レールと鋼鉄の車輪が擦れ合う金属音と共に、方向表示幕に“大阪環状線”と書かれた、赤茶けた朱色の車輌が頭の上をゴトゴトと通り過ぎて行く。


鉄道のガード下、住居兼倉庫になっているこの建物の頭上は、常に朱色の電車に支配されている。

しかし、室内の埃っぽい空気と薄暗い空間には似合わない、コーンポタージュの香りと、ガーリックトーストが焼ける、ガーリックの香ばしい香りが室内に漂っていた。


「ソン、できたでぇ!」

若い、弾けるような声が、薄暗い空間に響いた。

「おう。」

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