衛藤は話し終わると、柳田の目をじっと見つめた。
衛藤の深く、熱い目が柳田の動きを止めた。
過去の汚点が柳田の背中に乗る日までは、柳田は衛藤直属の部下だった。
そして畠田は、その柳田の部下だった。
共に、共産勢力から日本を守る為に戦ってきた。
衛藤なら信じられる。
柳田の心が呟いた。
『イリーガル』
今まで自分が使いこなしてきた立場だった。
だが、今回はそちらの方が有難い。
柳田は衛藤の目をしっかりと見つめ返して、言った。
「行ってきます。」
五.
暑い夏空、照りつける太陽に、急上昇する気温を更に煽るかのような、レールと鋼鉄の車輪が擦れ合う金属音と共に、方向表示幕に“大阪環状線”と書かれた、赤茶けた朱色の車輌が頭の上をゴトゴトと通り過ぎて行く。
鉄道のガード下、住居兼倉庫になっているこの建物の頭上は、常に朱色の電車に支配されている。
しかし、室内の埃っぽい空気と薄暗い空間には似合わない、コーンポタージュの香りと、ガーリックトーストが焼ける、ガーリックの香ばしい香りが室内に漂っていた。
「ソン、できたでぇ!」
若い、弾けるような声が、薄暗い空間に響いた。
「おう。」