龍と狼29

武藤 岳  2007-10-24投稿
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若い弾けるような声とは対照的な、暗い声が、ロフト状になっている狭い二階部分から聞こえてきた。


「ソン、冷めるやんか!はよ、しいやぁ!」

下から急かす声が聞こえてくるのも、お構いなしに、ソンスンはパソコンをいじっていた。

後ろに置いてある銀色の液晶テレビからは、やかましくテロの続報が流れていた。


ソンスンの周りを囲むように、棟方の写真や棟方を乗せるハイヤーのルート予想図などが散乱していて、その傍らには、依頼遂行を物語る、殺害報告書の下書きが数枚散らばっていた。


ソンスンの表情は険しかった。


メールボックスには、棟方の暗殺を依頼する内容のメールが数十件送られて来ていたが、その大半は、依頼というよりも、“願い”に近かった。

『棟方を殺りたい』

その気持ちが、昨日で倍増した。


「ソン!」


梯子を登りながら、きつい大阪弁で自分を呼ぶ声が近づいて来て、振り向くと、そこには、普段なら凛とした顔だが、今は鬼の形相のソルミがいた。

「ちょっと!呼んだらはよ、降りといでえや!トースト冷めてまうやろ!」


「ごめん」

素直に謝っておいた方が無難そうだったので、ソンスンは申し訳なさそうに謝った。



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