ヤス#178
その頃、サトリは御床島の岩の上で呪文を唱えていた。
輪廻転生の呪文。
幾日も唱え続けている。サトリの体からは水分が失せ、枯れ枝のようになっている。
額から流れていた汗も、白い塩の粉と化していた。サトリの命は風前の灯だった。
(ヤスよ…母様よ…出でよ…輪廻せよ!)
潮目が動きだした。白波が立ち、次第に大きくなっていく。いくつもの小さな渦が巻きだした。そして、それは寄り添うように重なると、大きな渦に変わっていった。
渦の中心から天に向かって一条の光が走った。そして、その光を追うように、渦の中から二頭の龍が飛び出した。金と銀。ウロコを艶やかに煌めかせながら天に昇っていった。
「出でたか…ヤス…母様…全てを託すぞ…」
サトリは力つきて倒れた。