あのセーガル様がやってきた。これはきっと神の思し召しだろう。村人達は急に色めき立った。もしかしたら助かるかもしれない。セーガルへのアスレイア国民の信頼は絶大であった。
しかし、先程セーガル様は何と言った?目の前の少年を大地の御子と呼ばなかったか?大地の御子。その名は決して軽々しく使っていいものではない。その呼び名はかつて聖剣王イシュトヴァーンに付けられた呼び名であり、大地母神マザーに選ばれたもののみに許される呼び名であった。
「セーガル様。大地の御子とは。この少年が大地の御子だとでもおっしゃるのですか?」
村長は思わず聞き返した。と、その時集会場の外で馬のいななきが聞こえた。
村人達は一斉にその声の方向を見た!外で火の手が上がっている。
「まさか、討伐部隊がもう!」
村人達はざわめいた。村長は老いた体に鞭を打つように、村の入口に急いだ。村のあちこちで火の手が上がっていた。見知らぬ男達が馬に乗り、村のあちらこちらに火矢を射かけていた。
「やめてくだされ。あなた方のお仲間を殺したものは引き渡しまするゆえ、どうかやめてくだされ。」
男達の中で1番えらそうに馬の上に踏ん反り返った男に訴えたが、男は一瞥をくれただけで他の者達に叫んだ。
「どうやらこやつ、反乱軍の長らしい。われらの仲間を殺した犯人を引き渡すといっておるがどうする?」
「反乱を起こす輩等、生かしておいては皇帝陛下の為にならぬ。皆殺しにして、陛下の御心を休ませ遊ばせることこそ臣下の努めよ。」
もとより男達は、犯人の捕縛にやってきたわけでも、反乱軍を討伐に来たわけでもない。略奪こそが目的であり、全てを根こそぎ奪わねばこんなひなびた農村に出向いた意味がない。奪い尽くし、食らいつくし、女を犯す、それが略奪者達の願いであった。
「というわけで、皇帝陛下の御為に、お前達を皆ごろしにせねばならぬ。なに安心しろ。女子供は無残に殺しはせぬ。我らを楽しませてくれるならな。だが、それすらもおぬしの心配は必要あるまい。なぜなら今ここで死ぬのだからな。」
馬上の男は下品な笑いを浮かべながら剣を抜いた。村長は、あまりの恐ろしさに身動きも取れない。
その剣が振り下ろされる瞬間、それをもうひとつの剣が遮り、弾き飛ばした。
後ろに振り向いた村長が見たものは、神々しいまでの光りを放つ剣を持った少年の姿だった。