刃と刃がぶつかり合う轟音。その刃の一振りで互いに相手をただの肉塊にせんと急所を狙い振り降ろす。
しかしこれは訓練の一つ。だが、彼らから発せられる殺気は常人では発狂するか気を失ってしまうであろう偽りの無いもの。
そんな死と隣合わせの魅せられる斬り合いを数十分、数十合。
死の音色を奏で合う2人にこの時間はいかに長く、彼らの精神と肉体の疲労は測り知れない。
均衡状態に在ったなか、一回り体の小さい少年が今まで受けていただけの刃を強く押し返す。
既に散漫状態となった集中力ではそのとっさの行動に対応仕切れず、当たり負けはしないだろうと踏んでいた澄んだ緑の目を持つ青年の刃を握る腕を天へと向けてしまう。
その後の脳裏に浮かぶのは死。背中に走る悪寒。
だが、空いていた左手は意識とは裏腹に自分を無きものにしようとする少年へと向ける。
幾度と無く積んだ訓練。生暖かい赤いものに濡れ、数えきれない程の肉塊を越えてきた者の体に染み付いた防衛術。
手のひらから発せられる青白い神々しい光。
その刹那割って入る声があった。
守る物を失った胴を両断せんとしていた刃が寸での所で止まり、左手から発せられた魔力を帯びた光が止む。
『おい、魔術は禁止していたはずだ』
中年の教官らしき男性が少し怒りのこもった独特の低い声で言い放つ。大抵の女性ならこの声に惹かれてしまうだろう。そう、これは年に数回行われるレジェンドと称される者達の模擬戦であった。