段々と寒気を感じてくる時刻、今は太陽の光も見えてはいない。
爆音をあげながら走り続けていた車はとある錆び付いた鉄工所へとたどり着いた。
辺りは暗く、人の気配がない。
望が照明を点けようと壁沿いに歩いている間、謎の男Jと二人きりにさせられていた光は、とてつもない不安にかられていた。
ガクンという音と共に天井から眩しさが伝わってくる。
明かりが灯った電球は、段々とその存在感を増してゆく。
「何故ここに来たの?」
コートを着ていない光の背筋には、寒気よりも不安が通る。
「今から、日本に在中しているアメリカのCIA部員と待ち合わせをすることになっているんだ」
Jは何食わぬ顔でじっと遠くを見据えていた。
「にしても遅いなぁ……」
望は苛立ちを隠せないようだった。
足元に転がっていたボルトを蹴飛ばす。
「……アメリカ人よね?」
光はこの空気が好きではない。
何か話題を作り、気を紛らわさないと、今にも狂いそうだったのだ。
「マークは日本語ぺらぺらだから安心しな」
続けたいのに話が続かない。
『やっぱり私には恋愛なんて無意味だったのかな……』
心の中で虚しく響く自分の声。
今の光は『そうなんじゃないの?』と自分の考えを肯定してくれるものもなく、『そんなことないよ』と否定してくれるものもない。
自分の考えが平らな床をただひたすら滑り続けているだけ。
どんな形でもいい。
けなされても、踏み付けられても、そのまま無視をされるよりは。
『とにかく一人にしないで……』
自分を守ってくれているこの二人には感謝をするべきだ。
しかし、彼等は正面から私と向き合ってはくれていない。
何か一枚、高くて分厚いものを保証代わりに建てて、私と関係を作らないようにしている。
それは光にとって、”仕事”という面を押し付けているに他ならないような気がする。
そんな考えが、状況を更に悪化へと押しやっていた。
自分が何故ここに居て、寒くて、泣きたくて、わからなくて……
その時、一台のバイクが鉄工所に滑り込んで来た。
一人の男を乗せて。