誰かが目の前に立っている・・・。(ああ・・・また『あの夢』か・・・)
しかし明らかにいつも見る『あの夢』とは違っている。それは目の前に立っている人間の顔がはっきり見えることだった。
不精髭をたくわえた顎にボサボサの髪、しかし眼光は鋭く、それはまるで歴戦の戦士を思わせる。そしてその男は口を開いた・・・。「生きろ・・・。」 それだけ言って後ろを向き、歩きだした。
「おい!待てよ!」
龍一は叫んだ。叫べた自分に少し驚いた、今まで夢の中で叫べたことなど無かったからである。しかし驚く以上に男に聞きたい事があった。
「生きろって何なんだよ!だいたいあんた誰なんだ!」
歩く男の足が止まる、
「すぐに分かる・・・。」背を向けたままそう言うと男は消えていった。
男が消えるのと同時に龍一は目覚めた。「つうっ・・・」頭が痛い。目眩がした。(くそっ・・何が「すぐ分かる」だよ・・・)目眩が止んだ後、龍一はあることに気付いた。(あれ?電車動いてねぇ。)電車はまだ眠る前に見た駅から動いていなかった。(なんかあったのか?)そう思い立ち上がり辺りを見回す。そのとき龍一は見た、自分を取り巻く『異変』に。