航宙遊牧民族は物造りが苦手だった。
あるいは重視していなかった。
彼等からすれば生産物とは購入するか収奪する対象であれこそすれ、自らそれに携わる事は、恐らくは軽蔑すべき話だったのだ。
しかも、消費すべき頭数が、大衆市場としては貧弱な規模に終始していた。
どれだけ豊かでも、だから一人辺り毎日十人分のステーキやパンが食べれる訳では無いのだ。
一方、この点狩猟民族はそれこそ物造り・技術開発に特化して行った。
それぞれ居住には不向きだが極めて個性的な恒星系に散った彼等は、後には超新星やブラックホールまで相手取り、未知の物質や粒子を次々と発見・合成し、新たな技術体系を営々と築いていた。
航宙遊牧民はここに目を付けた。
狩猟民族を保護・優遇する代わりに、その高度な製品や人工資源を入手する関係を作ったのだ。
これはお互いに利益のある提携だった。
狩猟民族は安全保障にかかる莫大なコストを回避出来、その分を生産に回せる。
出来上がった産物は確かに高品質だったのだが、大衆市場で流通させるには実は不向きでもあった。
何故なら一般諸国企業の生産規模自体が比較にならない程大きく、良くも悪くも職人的な狩猟民族側産品と比べて、大量生産・低価格戦略で有利な立場にあっただけでなく、それぞれの国家とのコネを利用して規制や関税等で簡単に部外者をシャットアウトする事が出来たからである。
これに対して、狩猟民族側は小さな人工植民体毎に散在し、技術体系も規格も各部族毎にまちまちだったのだから、勝ち目が無かったのだ。
よって、豊かで質が高ければ幾等でも金を出す航宙遊牧民は、狩猟民族に取って、唯一のお得意先となるのは当然だった。
この蜜月は歴史的に見れば、比較的長く続いた。
時として航宙遊牧民側に暴君が出現し、又、狩猟民族側が軍事的にも自立や拡大を求めたりして宇宙の各地で緊張が走る事も珍しく無かったが、全体として両者が共同して今だ数量的には強大な太陽系に代表される通常諸国に対抗するスタンスが崩れる事は無かった。