不幸貯金

ケイ  2007-10-28投稿
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歩いていた。

ただただ歩いていた。

周りの目など気にせず涙を流しながら、どこに行こうなんてこれっぽっちも考えず、ただ歩き続けていた。

わたし、池上レイは、ついさっき、愛する人に、別れを告げられたばかりだった。

悲しみのどん底にいた。

とにかくこの、彼への想いが強く残っている街から一刻も早く逃げ出したかった。


どれくらい歩いていたのだろう。

気付けば、全く見たことのない風景がそこには広がっていた。

人気のない、ひっそりとした町だった。

少し不安になり、辺りを見回した。

しかし、やはり人の気配はない。

時間も夕方の4時を過ぎていた。

いまは冬、あっという間に日が暮れてしまう。

『急がなくては家に帰れなくなるかもしれない…とりあえずどこかお店でも探そう』

そう思い、お店を探すことにした。

30分ほど歩いたところに看板が見えてきた。

しかし看板が古いためなんの店なのかよくわからない。

店のすぐそばまで行って看板の字を読んでみた。


「不、、幸、貯金……??」


よく意味はわからなかったが、とりあえず入ってみることにした。

店の中は薄暗く、机が一つと椅子が2脚あるだけだった。

「すいませ〜ん、だれかいませんか〜??」

しかし誰も出てこない。

「すいませ〜ん!!!」

もう一度、さっきより大きな声で叫んでみた。

「いらっしゃい。」

「きゃっ!!?」


突然後ろから声がしたので驚いて振り向いた。


「お客さん、今日はなんのご用かね??」


そこには小さな老婆が立っていた。

腰は曲がって、杖をついている。

もう結構な年なのだろう。


「あ、あのっ、私、道に迷ってしまって…この近くに駅かバス停はありますか??」

老婆はにっこりと微笑んだ。

「まぁ、そこに座ってくださいな。あなたはここへ導かれたのですから。お話なら、ゆっくり聞きますよ。」


そう言って、老婆は椅子に座った。

よく老婆の言っていることはわからなかったが、とりあえず私も座ることにした。

「あの…私が導かれたって……??」

「お嬢ちゃん、看板、みたわよね??ここはね、人の不幸を貯金する銀行なのよ。あなた、心当たりあるんじゃぁないのかい??」

「心当たり……」


無いわけなかった。

だって、私はさっき、世界で1番愛していた人を、失ったのだから。



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