歩いていた。
ただただ歩いていた。
周りの目など気にせず涙を流しながら、どこに行こうなんてこれっぽっちも考えず、ただ歩き続けていた。
わたし、池上レイは、ついさっき、愛する人に、別れを告げられたばかりだった。
悲しみのどん底にいた。
とにかくこの、彼への想いが強く残っている街から一刻も早く逃げ出したかった。
どれくらい歩いていたのだろう。
気付けば、全く見たことのない風景がそこには広がっていた。
人気のない、ひっそりとした町だった。
少し不安になり、辺りを見回した。
しかし、やはり人の気配はない。
時間も夕方の4時を過ぎていた。
いまは冬、あっという間に日が暮れてしまう。
『急がなくては家に帰れなくなるかもしれない…とりあえずどこかお店でも探そう』
そう思い、お店を探すことにした。
30分ほど歩いたところに看板が見えてきた。
しかし看板が古いためなんの店なのかよくわからない。
店のすぐそばまで行って看板の字を読んでみた。
「不、、幸、貯金……??」
よく意味はわからなかったが、とりあえず入ってみることにした。
店の中は薄暗く、机が一つと椅子が2脚あるだけだった。
「すいませ〜ん、だれかいませんか〜??」
しかし誰も出てこない。
「すいませ〜ん!!!」
もう一度、さっきより大きな声で叫んでみた。
「いらっしゃい。」
「きゃっ!!?」
突然後ろから声がしたので驚いて振り向いた。
「お客さん、今日はなんのご用かね??」
そこには小さな老婆が立っていた。
腰は曲がって、杖をついている。
もう結構な年なのだろう。
「あ、あのっ、私、道に迷ってしまって…この近くに駅かバス停はありますか??」
老婆はにっこりと微笑んだ。
「まぁ、そこに座ってくださいな。あなたはここへ導かれたのですから。お話なら、ゆっくり聞きますよ。」
そう言って、老婆は椅子に座った。
よく老婆の言っていることはわからなかったが、とりあえず私も座ることにした。
「あの…私が導かれたって……??」
「お嬢ちゃん、看板、みたわよね??ここはね、人の不幸を貯金する銀行なのよ。あなた、心当たりあるんじゃぁないのかい??」
「心当たり……」
無いわけなかった。
だって、私はさっき、世界で1番愛していた人を、失ったのだから。