立ち止まる男。
右腕を天高く突き上げて、指を鳴らす。
乾いた音が響き渡ると共に、男が触れた部分の輝きが増す。
視界が白く塗り潰されたかと思うと、鈍い衝撃が脳天を突き抜け、爆音が轟く。
キッドと魔女が接触した場所の隣に建つビルの屋上で、一人の男が欠伸をしながら下の様子を伺っていた。
つんざくような大音響と眼下に広がる光景が、一つの事実を知らせる。
(…失敗か…)
落胆とほんの少しの憐れみを浮かべ、男は拳を握
る。
(あいつの作戦が上手くいった試しないもんな。仕方ないっちゃ仕方ないけど…いきあたりばったりは勘弁してほしいぜ。
新人君、ケガなきゃいいけど。)
僅かばかりの気掛かりをよそに、魔女目掛けてその身を投げ売った。
黒煙が立ち上る。
それを見つめながら、魔女の男は、恍惚に酔いしれる。
肌を焼くような熱風が身体を撫でる。本当なら嫌悪するその感触も、心地良さしか感じない。
異常な感情。
男はほくそ笑みながら、その場を後にした。
が、
「…ゲホッ、ガハッ!あつっ…あちちっ!!」
黒煙の中から声が聞こえる。
驚愕の表情に一瞬で塗り代わり、振り返り、叫ぶ。
「バカなっっ!!?」
そこには、先程殺したはずの女の姿。
衣服が燃え、破け、その正体をさらけ出していた。
女を装った、一人の少年…
「間一髪、だったぁー…。もし時間差が無かったらやられてたよぉ。」
安堵としてやったりの表情で、キッドは立っていた。無傷とは行かないまでも、奇跡の生還。
魔術効果を打ち消す、アンチマジックフィールドを展開した手で、相手の魔術に触れたのが良かったのかも知れない。
その瞬間、その魔術の形と大きさを把握することが出来た。魔力の密度から完全に消失させることは不可能でも、掴んで身体から引き離すことは可能だと。
魔女が距離を取って指を鳴らすまでの、ほんの僅かな時間差。
しかし、死を免れるには十分な時間だった。
現状、キッドは生きている。
相手の魔術を看破し、捕らえるには至らないまでも、足止めには成功した。
「…貴様、魔術士か?」 男は静かに問い掛ける。
冷たい眼差しは、怒りに震えていた。
キッドは怖じけづく。
(ここが…限界です…!後は、お願いします。アルベルトさん!!)
その時、男の背後に竜巻が巻き起こった。