柳田は、特に深い疑念という訳ではなかったが、何となく、今の執事とアイリーンのやり取りが不自然に映った。
しかし、自分が“錆びた”と思い込んでしまった柳田には、杞憂でしかなかった。
天井が高く、大理石の柱で造られた長い廊下を、初老の執事に先導されて、二人は大きく、奥行のある広い応接室に案内された。
中世の城を彷彿させるような室内の真ん中に位置するソファーに、部屋の空気と全く調和しない、くたびれた濃紺のスーツ姿の柳田と、柳田よりは、お洒落だが、やはり、この豪華な部屋にはそぐわない、デニムパンツを穿いたアイリーンが、どっかりと腰を掛けた。
奥にある、立派な装飾を施した重々しい扉が開くと、長身で、彫りが深く、凛とした美しい青年が、胸元が涼しげな白いドレスシャツと、上質な白い上下のスーツ姿で現れた。
柳田や執事も含めて、皆、濃い、ダーク系の服装なので、この青年の服装は一際涼しげに見えた。
但し、この高貴な彼にも、一つ特徴があった。
それは、いかにもヨーロッパ調の、中世から続く名門中の名門の、名家のような雰囲気溢れる空間とは溶け合えない、欧米人とは異質な彼の東洋人的なオリエンタルな風貌だった。