青年は、柳田のちょっとした躊躇を見逃さなかった。
「以前とお変わりありませんか?と言いたいところですが、お疲れのご様子ですね。」
「ええ、連日のテロのせいでね。」
柳田は、くたびれたスーツをジロジロと見る青年の好奇な目線に耐えていた。
「わざわざ遠い日本から、如何されたのですか?お仕事ですか?
それとも・・
また、お金が必要になりましたか?」
隣にいたアイリーンが驚いた顔をした。
“またお金が必要”
この言葉に反応したのだった。
「いいえ。お陰様でお金には不自由していません。」
柳田は淡々と話を続けた。
「今回は、仕事でこちらにやって来ました。
それで、少し、あなたにお会いしたくなったのです。」
ここから、青年と柳田のやり取りが日本語になった。
「以前、あなたとお会いしてから、もう九年、いや十年が経ちます・・・。
率直にお聞きします。
あれから、心境の変化などはありませんでしたか?」
「久しぶりにお会いしたと思えば、いきなり聴取ですか。
ええ、あの時、あなたとお会いした時と何も変わってはいないですよ」
青年は優しい笑顔を崩さなかった。
「そうですか・・」
柳田は話題を変えた。