8月の暑い日。
愛しの母を失った。
僕は母と同時に「声」を失った。
あまりのショックな出来事だったから。
喋れなくなった。
僕には身内はいない。生まれてすぐに捨てられたから。
そんな僕を他人だった「母」が育てた。
でも今はもういない。
遺骨を抱いたまま、わずかな小銭を握って家を出た。と言うか、追い出された。
だって…まだ。家賃なんて払える年じゃないし。
とにかく遠くに行きたかった…
わずかな小銭を僕は切符に変えて、電車に乗った。
行き先は昔、母と一度だけ行った原宿。
行く理由なんてなかったけど。
行くとこがなかったから。
原宿は、昔来たときと変わってなかった。
見渡す限り「人」「人」「人」。
田舎者の僕にはみるものすべてが新鮮だった。
母と来たときに寄ったお店も、まだあった。
一通り原宿を歩き回ったんだ。
でも何もみつからず…呆然と立ち尽くすしかできなかった。
すると足下から
「よ〜!田舎モン。」「オメーだよオメー。」
?
「物騒なモン抱き抱えて何してんだよ?」
「………。」僕は喋れない…声が出ない。