空気が振動しているのが頬を通して伝わってくるのを感じた。
バイクは三人のちょうど真ん中に止まり、その大きく力強い鼓動を停めた。
マシンに跨がっている男はヘルメットの代わりにサングラスをかけていて、いかにも不良の雰囲気を醸し出していた。
立ち上がった白人は身長、180cm前後といったところであろうか、光を見下ろすほどの背丈である。
「君が光だね」
大きさとは裏腹に声は明るく、澄んでいた。
しかもこの短いフレーズの中に、日本語以外の要素が聞き取れないほど完璧なものだった。
「…………はぃ……」
外人との会話はいつでも緊張しないときはない。
「どういうつもりなんだ、マーク」
声に苛立ちを隠せない望は部屋の片隅にある溶接機を眺めていた。
「五年ぶりなのに相変わらず冷たいな、望」
そう言いながら、マークと呼ばれた男はサングラスを右手で取り外した。
そこには、キリッとした目があり光には緑と青を掛け合わせたような色が全てを見透かしているように思えた。
「誰かに見られたらどうする。ヘルメットも被らずに。日本の警察は厄介なんだぞ。分かっているのか?」
「おぃおぃ、いきなりなんだよ。大丈夫だって」
「この前の件でもそんなんだから……」
外人の顔色が曇ったのを、その場にいた全員が見逃してはいなかった。
「……悪かったな」
明るい目の輝きが一瞬、白濁としてしまったのは気のせいであろうか。
とにかく、触れられたくない過去を背負っているらしい。
暗く重い空気にしてしまった張本人である望は話題を変えるように切り出した。
「お前、一人で来たのか?」
我に帰ったマークは静かに喋り出した。
「そんなに人手はいらねぇだろ。第一、俺の前じゃどんな奴でも無意味だ」
「その自信は一体どっから出てくんだよ」
「……勘だよ」
そしてマークは踵を返して光の方へ向き直した。
「さてと、そろそろ移動を開始しますか、お嬢さん」
そういってバイクから小型の装置を人数分取り出した。
「これを耳に付けてくれ。ちょっとしたアイテムだ」