しかし、スチュワート卿は、青年を心から愛し、信用していたし、青年も彼の期待に応えた。
『環境が変われば、人格も変わるのか?』
柳田には疑問だった。
柳田はスチュワート家と、ある取引を交わした。
それ以降、スチュワート家や青年との接触は制限されている。
一年に一、二回、アイアンを、心理カウンセラーとして派遣する事くらいが関の山となった。
だから、青年の変遷期を見ていない柳田には、青年の本質の変化には疑問を持ち続けている。
「先ほど、義父から連絡がありましてね。明後日、サンフランシスコスタジアムのテロ発生現場で、今回のテロ事件で亡くなられた方々の追悼記念式典が行われるそうです。
私にも、スチュワート家を代表して出席するようにと。」
柳田の表情が緊張した。
「あなただけ、ご出席されるのですか?」
「ええ、義父は非常に多忙なものでね。
日本の総理大臣や、各国の首脳が来られるそうです。」
青年は、元の優しい表情に戻っていた。
「世界の指導者が一同に集う場所に同席されるとは、ご立派になられましたね」
「ありがとう」
青年は軽く受け流した。
柳田は、この青年の過去を知る忌まわしい人間だった。