4月。
出会いの季節。
そして、別れの季節。
一週間前に咲いた桜がもう散り始めていた。なんだかな…。そんな事を思いながら冬夜はぼんやり空を眺めていた。
山村冬夜(やまむら とうや)。寒い冬の真夜中に産まれたから冬夜。そのまんまの名前になんじゃそりゃとか思いつつ嫌いではない自分の名前を答案用紙に書き込んだ。
高校2年、学年始めてのテスト…冬夜はずば抜けて勉強が出来る訳でもなく、しかし、全く出来ないわけでもない。それなりに程度。ぼんやりしながら四角い枠にそれなりの答えを書いていく。
カーンカーン
テスト終了の鐘の後、さっさと答案を提出して教室を出た。あーだこーだ、とテストの答え合わせをしている生徒の間をすり抜け、中庭のベンチにドサッっと腰を下ろした。全身の力を全て抜いて背もたれに体重を預け、空を見上げる。
雲一つない青い空。
吸い込まれそうな青。
白く光る太陽に目を細めながら、その青をぼんやり眺めていた。
「冬夜っ!」
温かい声と共に視界が急に暗くなる。
「なんだ、桜か。」
逆さまの少女に視点を合わせた。
春日野桜(かすがの さくら)。背中まであるさらっとした黒い髪を一つに束ねた少女は、冬夜の幼なじみ。お隣さんの彼女とは、小中高ずっと同じクラスだった。去年までは…。
2年に上がって始めて違うクラスになった。そう、今年は何かが違った。
「なんだって何よ〜?」桜は少し膨れて見せた。
「それ、かわいくねーぞ…。」
「ひどっ!せっかくかわいい幼なじみが、はるばる探しだしてあげたのに〜。」そう言って逆さまだった顔を引っ込め、冬夜の横にチョンっと座った。
「今日部活は?」冬夜の顔を覗き込みながら桜はいつものように聞いた。
「いつもど〜り。桜は?」ちらっと桜の顔を見てすぐに目をそらした。高校に入って急に大人っぽくなった桜に冬夜は今までにない気持ちに襲われるようになった。顔を見て話すのが照れ臭くてつい目線を反らしてしまう。今までなんでもなかった事が急に恥ずかしくてできなくなっていた。「あたしは今日は休みになった!先生の都合とか何とか?」桜は陸上部、冬夜は吹奏楽部。スポーツ万能な桜は陸上部でも期待のエースだった。一方、冬夜はトランペットをやってるにも関わらず目立つ事が苦手な性格のせいで、地味な毎日を送っていた。「じゃぁ、部活終わるの教室で待ってるねっ!」そう言い残して桜は行ってしまった。