金と権力を手に入れた青年にとって、柳田は邪魔な存在ではないのか?
柳田はたった二、三十分のやり取りの中で、次第に不安感を抱くようになってきた。
彼の表情、言動、落ち着き払った雰囲気・・・。
事実、柳田は出された紅茶を一度も口にしなかった。
隣のアイリーンが美味しそうに飲んでいても、柳田は信用できなかった。
結局は、どうでもいいような話に終始して、柳田とアイリーンは席を立った。
柳田が青年に感じていた疑念は増長する事も、払拭する事もなかった。
そもそも、彼との面談は、今回のニホンオオカミの情報収集とは、全く関係のない行動であり、柳田が感じていた、根拠なき疑念は行き場を失っていた。
二人を乗せた車が、停車場を出て、噴水のあるロータリーをぐるっと旋回している光景を、ケビンは城塞のような屋敷から見つめていた。
少し下がった所に立っている執事に、ケビンは静かに語った。
「ハエは、どんな所でもたかって来るんだな」
執事はケビンの語りかけに、同じく静かに返した。
「仰るとおりでございます」
広大な敷地を走る中、柳田はずっと向こうの農地に、三機の軍用ヘリコプターが待機している光景を見た。