まず目に入ったのは、真っ白だったはずの毛が紅色に染まって床に転がっているリン太の姿だった。
その傍らには父さんが向こうを向いて立っていた。
「父さん…?」
父さんは振り返った。それと同時に、僕は父さんの向こう側に倒れている、母さんのあまりにも無惨に変わり果てた姿と、父さんの手に握られた血の付いた包丁を見た。
その瞬間、僕は全てを悟った。
父さんの顔は、まるで別の誰かの顔を合成したかのようで、憤怒の形相で僕の方へ凄い勢いで迫ってきた。
僕は扉を閉めた。この扉には鍵がない。僕はドアノブを引っ張って開かないようにしながら、怯えきって目を見開いている風樹に叫んだ。
「風樹、窓から逃げろ!下は雪が積もってるから大丈夫だ!早く!」
風樹は一瞬戸惑ったが、すぐに窓に向かった。しかし、風樹が窓を開ける前に、僕の握力は限界に達した。
その後何が起こったのか、はっきりとは覚えていない。ただ、僕は自分の腹の激痛よりも、風樹の首から吹き出る紅い噴水に絶望した。それだけは鮮明に覚えている。