「凌駕は…昔、彼女を亡くしたんだ。」
“殺された”とは言わなかった。言えなかった。
「そう…だったんだ。私、全然知らなかった…」
「凌駕はそういうこと、誰かに話したりしない奴だからね。」
裕実は遠くを見ながら微笑んだ。
「私が甲斐くんを好きになったのは、中三のときなの。」
いきなりだったので僕は驚いたが、黙って話を聞くことにした。
「その頃の甲斐くん、何だか近寄りにくい雰囲気で…いつも一人だった。皆は甲斐くんのことを悪く言ってた。でも、私は知ってたの…甲斐くんが優しい人だって。でも話し掛ける勇気がなくて…ずっと遠くから見てただけだったの。高校に入って、甲斐くんが同じ学校だって知って、すごく嬉しかった。それで、甲斐くんは貴仁くんと一緒にいるようになって、私、少し安心したの。甲斐くんもあんな風に笑えるんだって。」
僕は呆れた。こんなにも陰から想い続けてくれた健気な人の存在に、何故、凌駕は気付かなかったのか。
僕は嬉しくもあり、羨ましくもあった。
「それで私、勇気を出して告白してみたの。そしたら…ごめんって…」
裕実はまた泣き始めた。頭では分かっていても、気持ちの整理がつかないのだろう。