とにかく彼女は普通だった。
普通の顔立ちで。
普通のSTYLEで。
普通のOLで。
普通に友達がいて。
普通に遊び。
普通にダラけて。
無難に仕事を熟し。
無難に1年をヤリ過ごしていた。
でも彼女には10の秘密がある。
でも彼女はそんなそぶりも見せない。
ただ隠し上手になっただけ。
ただ慣れただけ。
ただそうして35歳になっただけ。
それだけ。
16歳だった。
彼女はアルバイトを始める事にした。
理由は単純。
彼にプレゼントしたかったからだ。
いくつか面接を受けたがやっと採用されたのはドラッグストア。
生まれて初めての経験でただ緊張していた。
本当に緊張して店長の話しも届いてはいなかった。
やる事全てが失敗。
あっという間に昼休みに入り"辞める"事ばかり考えて…昼休みは終わってしまった。
午後。
彼女はただ真剣に化粧品のショーケースを磨いていた。
彼がそこにいるのも気付かずに…。
最悪だった。
彼が彼女を初めて見た時、彼女は汗だくで埃まみれだった。
ただ恥ずかしかった。
彼は製薬メーカーの営業だった。
これで3つの謎が解けた。何故彼が週に2度も現れるのか。
何故彼が薬の陳列をするのか。
何故彼が店長に媚びるのか。
でも1つ謎は残ったままだった。
何故彼が私を手伝ってくれるのか。
これは1ヶ月後に解けた。プレゼントがしたくて始めたバイトの理由が変わってしまった。
正確にはプレゼントする"彼"が変わったのだ。
それから彼女は俄然、仕事が楽しくなった。
空回りする事も無くなった。
社会人の彼が出来た事で優越感も味わっていた。
元彼を捨てたという非難中傷も気にならない程。
ただ楽しかった。
ただ幸せだった。
綺麗にもなれた。
大人にもなれた。
背伸びもした。
彼は油断したのだろうか。
彼はわざとしたのだろうか。
彼は…。
ある日、手が気になった。
何か違う手。
薬指に何かが光る。
指輪。
シンプルなリング。
彼女はもう1度だけ見た。右手ではなかった。
お箸を持つ手とお茶碗を持つ手…なんて事までやってみた。
間違いなく左手だった。