修学館の文化祭は2日目に突入した。真瀬姉妹の父・克彦は今日も次女・名波が通う高校に足を運ぶ。
長女・みくが通う桜庭学園での教職を辞めた後は専業主夫となり、妻子に手弁当を振る舞う日々を送る。
久し振りに羽を伸ばす克彦に気付いた孝政が声を掛ける。
「あ、おじさん、お久し振りです! 昨日は英語劇を見たんですって?」
「孝政君か〜。そうなんだよ。名波が他所の学校も見ておけときかなくてね」
2日目にしかやらない催し物を見ておいでよと言って、二人は別れた。
クラス出展のコスプレ写真について聞かれなかった。冷や汗を掻く所だった。
さて、この2日目では、定時制伝統のディベートが催される。
今回のテーマは「定時制高校のこれから」。2年後に分離独立する定時制はどうあるべきか……?
会場となる体育館は、定時制の生徒の大半と地元住民、地元マスコミで埋め尽くしている。ディベートの内容は公立高校再編計画に反映されるため、マスコミも注目している訳だ。
新設までの経過をまとめた文書と、在校生と卒業生の事前アンケートが資料として配られる。
定時制クラスの担任が進行を務め、定時制の代表4人と卒業生2人、地元住民2人が壇上で議論を展開する。
全日制組の生徒は会場にちらほらいる。臨は暗がりの中で博文と千聖を見つけた。
「良かった〜。うちらには関係ないって感じで、見に来ないんだもん」
「全くよ。私は佳純先輩が参加しているから見てるけどね」
佳純は定時制の生徒会長に選ばれてからは忙しくなり、ファミレスでの集まりは夏休みが明けて以来ご無沙汰している。博文達は佳純と一緒につるめない事が気掛かりだった。
「佳純さんの学年が最後だから、俺達が卒業する時に定時制はなくなるんだ。新しい学校はどうなるンかな〜」
観衆の関心は博文の一言に集約される。
新しい学校は、近辺の公立高校の定時制が統合して新設される事が決まっている。昼間主と夜間主の2コースに分かれるそうだが……。
「社会人の学び直しの場を確保するべきだ」
「生涯学習の受け皿として機能してもいい」
「今こそ教養主義を見直す時!」
言いたい放題に聞こえて、思わず考えさせられる意見ばかり。一瞬たりも見逃せない議論はまだ続く!