彼の薬指のリング。
あの日以来、彼と話せていない。
勿論、仕事の話しはしてる。
ただ…リングの事は聞けない。
彼が付けていたのはあの日だけだったから。
もっと聞けなくなった。
もっと疑問が増えた。
もっと不安になって。
もっと疑って。
もっと好きになってた。
彼も何も言わないまま。
彼女も何も聞かないまま。
二人は変わらなかった。
変われなかった。
終わりは突然来た。
彼に渡された。
結婚式の招待状。
悪びれもせず。
申し訳なさもなく。
照れもせず。
嬉しさもなく。
ただ、渡された。
あのリングは…本物だった。
ファッションリング。
お爺ちゃんの形見。
両親からのプレゼント。
どれも有り得なかった。
それでも彼女は理由を捜す。
納得したかった。
納得するしかなかった。
納得…した。
たった1回だったから。
ただの指輪だから。
たかが指輪だから。
彼はフィアンセに逢わせた。
綺麗な人だった。
大人だった。
艶かだった。
お腹が可愛いかった。
まるで敵わなかった。
彼女は初めて嫌悪感を覚えた。
それは彼に対して。
それは男に対して。
それは女に対して。
解らなかった。
解ろうとはしなかった。
解りたくはなかった。
初めての大人の恋だった。
彼女はもう一人で良いと思った。
一生分の恋をしたと思った。
海で泣いてもみたし。
叫んでもみたし。
腰まで海に浸かってもみたし。
雨にうたれてもみたし。
1日食べずにいたし。
彼女は歩き出した。
歩き出したのに。
誰かがそれを許してくれなかった。
鳴り止まない電話。
バイト先へのFAX。
営業の担当が換わった。
誰か分かった。
営業の担当が換わった日。
電話が鳴り止んだ。
営業の担当換わった日。
彼女にクビが告げられた。
全て終わった。
彼女には秘密が出来た。
彼と彼女は会っている。
18歳だった。
彼女は大学進学を諦め専門学校を撰んだ。
親元から早く離れたくて。
ただ自由が欲しい。
ただ時間が欲しい。
ただ一人になりたい。
今日から自由…ではなかった。
彼女は女子寮の前にいた。