「何なの?」
怪訝そうな顔をしながら光はマークを見つめる。
「最新型の携帯電話だと思ってくれればいい」
そう答えた望は手慣れた手つきで右耳にはめ込んだ。
髪の毛を耳にまでかけ、その存在を隠す。
光も置いてかれまいと、急いで取り付ける。
すると機械から耳障りな電子音が聞こえてきた。
『……searching…………』
光でも聞き取れる程の英語、しかし一体何を調べているのか検討もつかない。
『……What your name?』
「……え、何!?」
いきなりのアナウンスに戸惑いを隠し切れない。
「名前を言うんだ、名前だよ」
呆れ顔のマークはバイクの座席の下から何やら取り出しているようだ。
「……右京 光」
『日本人と特定。こんばんは、右京様』
驚いたのはもちろん光である。
「……凄い……」
『貴方の体型・身体能力・年齢等のデータを登録しました』
「……いつの間に……」
『ただ今からデータの確認を致します。確認が不要の際は御申し出下さい』
「確認は必ずやっておけ、いずれ役に立つ」
タイミングよくマークが声をかける。
他の二人は既に片耳に意識を集中していた。
『それでは確認致します』
興味深々、一方で半信半疑の光はアナウンスに意識的に耳を傾ける。
『細胞中に含まれるミトコンドリアレベル度数はA+と判定されました』
「……みとこんどりあ?……えーぷらすぅ?」
「まじかよ!?」
望は光の発言が受け入れられないようだ。
「……意外だな」
出発の準備をしていたマークの手が止まった。
「何なの? ミトコンドリアって」
「身体能力を左右すると言われている細胞のなかの組織。酸素を取り込んでエネルギーを作り出す、言わば工場の様な存在だ」
「で?」
「俺でさえAランクなのに……」
望が軽く舌打ちした。
「理論的に言えば、今の君は望以上に運動神経抜群という訳だな」
マークが付け足した。
運動音痴だと言われ続けて来た光にとって、衝撃的なことだった。
アナウンスは続いている。