青年は未だに夢の中にいるようだった。昼間とは大違いで酷い顔である。
『俺も朝からそんな不細工な顔は見たくない。長老と約束の時間まであと少ししかないんだ』
小馬鹿にした表情を見せ、そう言うと鼻で笑う。
『あぁそうですか。てか、おれの部屋がよくわかったな?』
その口調が未だにおぼついていない。それからまだ眠いのだろうと察する事ができる。
『個室を片っ端から開けていった。長官が朝から見当たらなかったからな。』
彼の外見とは裏腹に意外と大胆な行動をとっていた。疲れたと言い溜め息をつく。
『そいつはご苦労さん。……てかまだ2時間もあるじゃねぇか!』
時計に目を向けるとまだ急かす程の時間ではないと自己解釈。そして青年はあぁっと呻き声をあげる。
現代社会において、朝のこの貴重で憂鬱な時間を寝る事に費やすのが彼にとっての楽しみなのだろう。
『阿呆が、そんな馬鹿面を長官に晒せるか!いいか!?人間の脳が完璧に働くまで起きて顔を洗い朝食をとってからどれだけの時間を…』
『はぁい!ストップストップ!』
怒鳴り散らすように言うとても長くなりそうな説教に、それ以上の声を出して制す。少年はこのやり取りを見て笑っている。
『そんな事朝から聞きたくないっての!とりあえずちょっとしたら行くからさ』
おやすみと最後に言い残し夢の中に旅立とうと布団をかぶる。
『口で言ってもわからん奴には体裁だな』
手を前に持っていき指を鳴らす。乾いた音が部屋に響くと同時に、寝床についた青年の頭の上に水の球が現れる。バケツ一杯分程の量があるだろう。
『ラウル、"後の"奴を宜しく。食堂にいるから早くな』
彼はそう言い残し部屋に再び響く古びた蝶番の音。
と同時に重力に逆らう力を失った物はその下にいた彼を襲う。
『ぅぎゃあぁああぁぁぁっ!!』
その断末魔ともとれる悲鳴を背に彼は肩を揺らしクスクスと笑っていた。
惨劇後の部屋では、起きる事を強いられ着替える彼がいた。むしろ今まで彼を包んでいた者が、水に侵され寝る事ができない。
『あの野郎、絶対にこの報いは受けてもらう』
まだ髪からは水が滴り落ち、そう言うもどこか締まらない。
『あれは仕方ないよ。早く行こ?』
食欲をそそるパンの香ばしい匂いがする方へと向かう二人だった。