「冬夜のバカッッッ!!!」
桜はそのまま、教室を飛び出し走り去って行った。冬夜は教室にポツンと一人残された。左の頬に痛みを感じながら、冬夜はポカンと吊っ立っていた。
流れる雲。
同じ場所には戻らず、同じ形にも戻らず。
流れた時は、あがいてもかわらない。
どれだけ叫んでも、元のカタチには戻らない。
桜は次の日には明るさが戻っていた。でも、冬夜にはそれが無理してるのが痛いほど伝わっていた。だからこそ、冬夜は桜と居づらくなり、なんとなく避けてしまっていた。その日から冬夜と桜は一緒に帰る事もなくなり、顔を合わす数も減っていった。
流れる風
渦巻く空気
震える太陽
震わせる世界
赤金色に輝く楽器を震わせながら、冬夜は沈んでいく太陽を見ながら課題の曲を吹いていた。
『♪〜〜♪♪〜〜♪〜♪〜〜〜。』
あれから半年。冬夜は桜と関わらないように、過ごした。ずっと一緒だった時間が遠い過去のように感じて、毎日にやる気を無くしてしまった。
「山村君、ちょっといい?」
同じパートの女子に呼ばれ不自然に曲が止まる。
「最近、山村君元気ないけど、やる気ある?ないんだったら、次の演奏会欠場してもいいんだけど?」
あ〜だ、こ〜だと言っている女子を無視しながら、冬夜は一人物思いに更けた。
〈こんなとき桜(アイツ)ならなんて言うんだろな?〉
そして、また楽器から振動を放つ。
「ちょっと!山村クン!?聞いてるの!?」
そんな言葉も無視しながら、冬夜は沈んでしまった太陽の方を見つめ続け、また世界を響かせる。
「もういい!!ぶちょう〜〜!!!」
遠くで冬夜の欠場について話している女子二人をまったく無視して、冬夜は自分の放つ音に全部を委ねた。