彼の恋人

高橋晶子  2007-11-07投稿
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頃は12月。
期末試験が終わり、修学館の2年生は3泊4日の修学旅行に胸を踊らせる。青海同様、1学年の人数が多いため、北海道班と九州班に分かれる。
という話を名波に聞かされたみくは、気分が大きく沈んでしまった。実は11月上旬、桜庭の2年生は修学旅行に行ってきたのだが……。
「京都2泊3日……中学と同じ……自由行動無し。あるのは観光スポット巡りで、まるで世界遺産ツアーだわ。それを4クラス固まって移動したんだから」
体験学習がなければ大学見学もなく、戦争経験者の生の声を聞く機会もなかった。桜庭は何においてもステレオタイプなのだ。

翌日、みくは何もなかったかのように登校した。学校指定のスクールコートが身体を温かく包み込む。
同級生に他校の修学旅行の話をすると、恨めしい表情をする者の多いこと! しかし、暁は「修学旅行がてらに紅葉巡りなんて贅沢だぞ!」と一喝する。
日に日に難しくなる授業をこなし、帰りの時間になった。この時、担任がドキッとする事を言い出す。
「エリートコースを外れて挫折を味わって、初めて本当の自分に気付く人はいる」と。
詳しくはこうだ。
彼等の多くは家族や周囲の期待に応えるだけで、自分自身の事を何も考えないまま超難関の大学に入る。卒業の前後になって大きな挫折を味わい、自分は何者なのか、初めて考える。
そうした過程を経てジャズシンガーとして成功する人がいて、専業主婦に収まる人がいる。
「勿体ない」という生徒の囁き声が教室内に広がる。
「確かに勿体ない話に聞こえるけど、もし貴方達が修学館の生徒に負けたくないだけだったら、ここで思い直して欲しい」
と担任は忠告し、別れの挨拶をする。
「く〜、今のは痛い話だったな〜」
「小林君は何のために勉強してるの?」
「何って? 大学で天文学を学びたい一心さ! 本格的に天文学を学べる大学は3校しかない。その一つの東北大を狙ってるんだよ」
みくは軽く頷き、暁の表情は冷たくなる。
「真瀬こそ何を目指してんだ? それとも、妹が修学館に入ったのが悔しいだけなのか?」
暁は地味な堅物に見えて、中身はスケールのでかい熱い男である。その暁に突き付けられた言葉は、みくの心に深く突き刺さった。



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