「何時に家に着くかな?」
あゆみがちょっとふざけた調子で聞いた。
「分かんね〜な〜。疲れた?」
俺は振り向きもせずにぶっきらぼうに答えた。
本当は手を伸ばしてあゆみの手を引きたかったのに、、、。
終電が行った江ノ電の線路の上。
俺。17の夏。
20年経っても忘れられない一年の始まりだった。
その日は朝からどしゃぶりだった。
前からクラスの仲間達と海に行こうと約束してたのに!
「中止にすっか?今日は厳しいべ?」
そんな電話が悪友、高明からあったのが、朝の8時。
「そーだな。またにするか。」
そのまま、布団に転がってウトウトしていた。
「博之、電話よ、高橋さんだって。」
かあちゃんがニヤニヤしながら、電話の子機を持ってきた。
-高橋?-
「博之?あたし。あゆみ。今日、やっぱ、中止?」
おい、おい、どー考えても中止だろ?と、思いつつ、
「高明から連絡なかった?」
ちょっと不機嫌に答えた俺はハッとした。
「おまえ、どこから電話してんだよ?」
受話器の向こうからザーッザーッ、音がするじゃねーか!えっ〜!電車の音も〜!
泣きそうな、それでもちょっと怒った、はっきりした口調で、あゆみが答えた。
「江の島」
俺の初めての恋ってやつが、きっと、この瞬間に始まったんだ。