修学館の2年生が修学旅行から帰ってきた。九州班の博文、千聖、孝政は長崎→普賢岳(島原)→大牟田→福岡のルートで回り、北海道班の臨と裕介は函館→小樽→札幌のルートで回ったという。
それぞれ大学見学の機会があり、体験学習が主体の青海とは違った思い出が作れた。
旅で疲れた様子を見ない博文が帰宅する。みくは自宅の前で博文の帰りを待つ。
「博文君。おかえり」
「何だよ、みく。何かあるのか?」
別々の高校に通う二人は、お互い登下校に顔を合わせる事はなかった。それだけ珍しい事態だった。
「博文君が修学旅行に行ってる間、担任に言われたの。『エリートコースを外れて初めて本当の自分に気付く時がある』って」
「周囲の期待に応えるだけで、何も考えてない奴がハマりやすいパターンだな」
博文も、「いい子」の罠に気付いているようだ。更に言葉を続ける。
「でも、うちらではそういう奴の居場所はない。寧ろ来ないで欲しいんだ。誰しも自分を持って欲しいって空気があるからな」
「……」
「自分で決めた目標があるから、高校に入れたくらいで気を弛めないんだよ。俺も裕介もモーリーも、自分の人生で打ち込みたい事を親にさせて貰ってるんだ。うちらの女子の選択肢から専業主婦は消えてるな」
博文はそそくさと自宅に入っていった。みくの目から涙が溢れ始めた。
みくは昔から親の人形だった。お姉ちゃんだからという言い訳に屈し、我慢を強いられてきた。だから博文は暗い姉とは違い、明るく闊達な妹の名波に初めて恋心を抱いた。
博文も名波も、世界を相手に仕事をするために難関の大学を狙っている。臨と孝政は子供達と真剣に向き合う仕事がしたいという共通の目標があり、仲間意識が芽生えた。裕介は地球科学が学べる大学を狙い、必死だ。
みくは思い通りの人生を歩めない自分が嫌いなだけなのか? それなら、誰のために勉強に明け暮れる地味な青春に打ち込むのか? 本当に望んでいるのは何なのか、博文の目には見えない。
クリスマス熱が熱くなるこの時期、博文の恋の選択肢から真瀬みくの名は消え、「自立した異性」への憧れを確かなものにした。
そして、新たな年を刻み、高校生活最後の1年が始まる。