なんでサラリーマンやってんだろ…時々ふと考える。
めまぐるしく走る電車、途切れのない人波。たまに息苦しく感じる。
上杉健一、30才。8月で三十路を迎えた。
勤めている会社では係長。そこそこ仕事もこなし、4月に入社した新人の高倉と定年を二年後に控えた松山の三人でビジネスユニットを組んでいる。
特に仕事に不満があるわけではない。
一部上場で、一端の給料も貰っている。ここでそつなく仕事こなし続ければ、そこそこ出世をし、起伏のない、ある程度の幸せな人生を送れるだろう。しかし‥上杉も大きな組織に属している人間に共有の足並みを乱すことが許せれず組織に忠実に従わなければならない歯車的存在。そして冷徹な仕事人として振る舞わねばならないロボット的な連帯感。えもいわれぬ空虚な心持ちが日々彼を襲っていた。
…俺はなぜここにいるのだろう…いっそのこと会社を辞めてしまおうか…
荒廃した毎日に突然透き通る小さな泉が湧いた。
水沢亜希。来年就職活動を控えた大学三年の彼女と、上杉は何気ないあることがきっかけで出会った。生涯忘れられない鮮烈な出逢いだった。
〜続く〜