人徳
「全く、あれには恐れ入るぜ……」
クワを持つ手を休め、大神は隣で汗を浮かべているドラゴン、こと山際晋に話し掛けるともなく、つぶやいていた。
「ビアンカ(白の意味)ですか? まぁ、森の精霊ですからね」
二人の見やる方向に、大人達と木の切り株を片付ける作業をしていたビアンカ、すなわち白虎の姿が見えていた。
名前の由来となったガッタビアンカ(白猫)とプリントしてあるTシャツの娘は、一抱えほどの切り株を無造作に素手で引っ込抜いている。
「大神さん達が来てくれて助かりますよ」
額の汗を手の甲で拭いながら、晋は屈託のない笑顔を浮かべる。
不思議なヤツだな
大神は、数日前に食料を奪い取る目的で晋たちを襲った、暴徒のリーダーである。
食料に事欠き進退きわまった大神達に、快く食料と住居を提供してくれた晋。
「『得ようとする者は与えよ』と言うのが座右の銘なんで」
自然体で言う山際晋にひかれ、暴徒たちはいつしか彼に協力を申し出ていた。
滅亡の危機にひんした人類の、新しい国家のもとがここに誕生しようとしていた。