お互い、一緒にいても傷つけあうだけの関係になったのはいつだったろうか?
それでも離れられなかったのは
何で──
「お前は……口を開けば兄貴(黒峯)に似てないだったな」
「うっ……だってそれは」
「分かってる。だけど兄貴はあーだったこーだったって押し付けたりしなかった。俺を兄貴に重ねなかっただろ?」
「私の中の黒峯はたった一人よ。聖夜も同じ。重ねるわけ……ないじゃない」
朱斐は眉を潜める。
「桃実が……言った……俺の優しさが好きけど愛して無いって……多分俺も……だけど分からない。傍にまだいたかった……あいつの傷が心配だった…ただそれだけになってた。それが愛なのか好きなのか……ただの同情なのか分からなかった」
「けど……朱斐が俺を好きだって言ってくれた時……思い出した」
「何を?」
そう聞いた朱斐の手を取ると、聖夜は自分の胸に触れさせた。
朱斐が赤面する。
「な……」
「分かるか? お前と初めて会った時もこんな感じだった」
脈うつ鼓動。触れている手から伝わる高鳴り。朱斐は赤面しながらその熱気を感じる。
「あ……」
「俺は朱斐が好きだ。愛してる」
聖夜は破顔して、迷いない声で告白した。真っ直ぐ見詰め、ただ伝えるのは愛の言葉。
朱斐の目から自然と涙が零れていた。
とても綺麗な涙。
「私……私は……黄藍……と……」
涙で声が震えている。言いたい事を上手く発せずにいる朱斐を聖夜は優しく抱き締めた。
「俺は朱斐が好き……朱斐は?」
「私……も好き」
そう言うのが精一杯だった。嬉しいのか悲しいのか分からない涙を朱斐は流し続けた。
聖夜の腕の中で──
この瞬間が永遠ならどんなに──
朱斐と聖夜はお互いを抱き締め、言葉に出来ない幸せな刻を感じていた。
ようやく愛する者に愛し愛され、本当の両想いと言う幸せを知った。幸せだった。
電話の鳴り響く音が聞こえるまでは──
二人の愛は本当だった。
電話に出た聖夜が茫然としながら朱斐に言った。
「桃実が……病院に運ばれた」