時刻は七時、男は公園でただ独りで立っていた。
服装はグレーのスーツ、靴は黒の革靴で年齢は二十代半ばから後半といったところだろう。
二人で手を繋ぎ歩くカップル、家族を養う為必死に働き帰って行く会社員、祝う人がいないのかただ街を放浪する大学生。街には様々な人で溢れていた。
今日はクリスマスイブである、今年の冬は去年の暖冬と打って変わって十一月から肌寒くなり今月の初めには初雪が降ったほどである。
そして、今年はホワイトクリスマスになった。暗い空からライトアップされた街の光に反射し淡くひかりながら冬の象徴はゆっくりと降り積もってゆく。幻想的な景色だと感動する者もいれば暖房も無い部屋で独り寒さに震え、この自然現象を恨む者もいるだろう。
しかし、男はまるで周りの情景など目に写っていないのか、ただ独りで立っていた。手には最近流行のチョコレート菓子『ビター&スウィート』
1ダースのチョコレートが入っており、半分はビターチョコレート、半分はホワイトチョコレートという物だ。
男は右手にそのお菓子を持ち立ち尽くしていた。
時刻は七時、女は橋の真ん中でただ独り立っていた。
服装は黒いコート、黒いハイヒール、髪は肩まで伸びていて年齢は二十代前半から半ばといったところだろう。
この橋からの夜景は地元でも評判のスポットでほかにも幾人かいたが、いずれもカップルでありどの組み合わせも自分達の世界に入り込んでいるようだった。
そんな中、女は眼前に広がる夜景など無いかのように、ただ独りで立っていた。手には男と同じ『ビター&スウィート』が握られていた。
女は左手にそれを持ちただ立ち尽くしていた。
やがて男はおもむろに『ビター&スウィート』から一つホワイトチョコレートを取り出すとゆっくりと、口に運んだ。口のなかに甘さが広がっていく。暫く無言で味を噛み締めたあと男は「やっぱり俺には甘すぎたよ…」と、ここにはいない誰かへと呟いた。
その頃女は『ビター&スウィート』からビターチョコレートを取り出し同じように口に運ぶと、暫くして同じように呟いた「やっぱり私には苦かったな」と。
雪はゆっくりと降り積もっていき、やがて溶けて流れていった。