弔う人々

すてねこ  2007-11-13投稿
閲覧数[781] 良い投票[0] 悪い投票[0]

朝、家を出ると世界は変わっていた……らしい。

いつもの道のりを歩いていると、ある不自然さに気付いた。始めは何とも思っていなかったが、段々とその異常を異常として受け入れることができた。道行く人々が皆一様に黒服に身を包んでいたのだ。
大人は喪服を、子供も落ち着いたデザインの黒服を着て歩いていたのだ。最寄りの駅に着いても、ホームに立つのは黒服ばかり。まさかと思って電車に乗っても、やはり皆黒服だった。
怖くなってきた。何故なら、私は今日はグレーのスーツだったから。もしかしたら、黒服を着ていない私が異常者なのかもしれないと思い始めたのだ。
そう思った途端、周りの視線が気になりだした。みんな私を見ている?異常な私を見ている?嫌な汗が出てきた。
降りたい。早く電車を降りたい。

会社の最寄り駅に着くと、一目散に駆け降りた。普段は走らない階段を走った。走った。走った。

会社に着いた私は、そこでも愕然とすることになる。受付も、エレベーターの中も、部下も上司もみんなみんな黒服だったのだ。みんなの視線が私に集まる。そこにあったのは、侮蔑、軽蔑、嫌悪、その他諸々。悪感情しか込められていなかった。
怯えた。私は酷く怯えた。やはり私が異常者だったのだ。

「何故、何故みんな黒い服なんか着てるんだ?!」思わず叫んだ。

部下の一人が諭すように言った。
「ぼくたちは喪に服しているんですよ、係長」

「喪に服す?誰に?一体誰が死んだって言うんだ?!」

「…何を言ってるんですか?本当にどうかなさったんですか?人だったら毎日亡くなっているじゃないですか。こうして話をしている間にも!何人も、何千人も!」

私は部下が何を言っているのか理解できなかった。喪に服す。毎日毎日死んでいく、世界の誰かのために?いつからそんな風習ができたのだろう?昨日はみんなも黒服なんか着ていなかったのに。
私が眠っている間に緊急の法改正でも成されたのか?

訳がわからない。

i-mobile
i-mobile

投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 すてねこ 」さんの小説

もっと見る

ホラーの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ