一方、練習試合を終えた橘も帰宅した。
2年唯一のレギュラーであり、今年は身長を買われ外野手から一塁手にコンバートした。
帰宅すると小学生の弟と妹がリビングで遊んでいた。
それを見て橘はゆっくりと二階に上がっていった。
部屋に入り着替えた橘はすぐさま風呂場に向かった。
すると腫れ上がった足を冷水で冷やし始めた。
小学校から中学にかけて急に体が成長し、そのガタイの良さとパワーで1年秋からすぐにレギュラーを獲得。
しかし、完全に体ができあがってない橘を周囲が高く評価し、その代償が自分の体に跳ね返ってきたのだった…
橘(くそ〜!足痛いな〜!これで合宿もつかな…)
既に曽我端からは八神達が抜けた後のキャプテンと4番を確約されている。
先輩や曽我端の期待に必死に応えようと痛む足に鞭を打って練習や試合に臨んでいた。
橘(このままじゃあ曽我端さんや先輩達に迷惑をかけてしまう…)
橘は先輩には献身的で、練習も真面目に取り組む素晴らしい人格者だ。
だがその人の良さが自分を苦しめてしまっているのだった…
橘(野球部入ってすぐにレギュラーなれて最初はホントに楽しかった…でも…)
橘は悩んでいた。このまま野球を続けていくことがどんどんと自分を傷つけてしまう結果になることを…
それは誰よりも自分の体がわかっていた…
しかし、野球を辞めることは曽我端や最後の夏に向け戦っている先輩達に多大な迷惑がかかることも誰よりも橘自身がわかっていた…
橘(とりあえず合宿終わるまでなんとかもってくれよ…せめて先輩達が引退したら完全に治療に専念するから…)
自分の足に話し掛けるかのように、橘は蛇口から出る冷水に打たれている足を見つめていた…
橘家の風呂場にはジャーっという水の音が響いていた…
故障に悩む2年生スラッガー…
彼は地獄と呼ばれる合宿でどうなってしまうのだろうか…
そして、彼の今後はどうなるのだろうか…