「?…何だ少年?生きてたのか?よかった、よかった…」
突如巻き起こった竜巻の中から声が聞こえた。
無感動な語調に聞き覚えのある声。
「んなことより、おい!そこの変態弾ける系!!名前何てーんだ?」
未だ吹きやまぬ風の中から続ける。
魔女の男は焦燥した様子で、
「…仲間か…くそっ!」
毒づく間に輝く右手を竜巻に突き込む。
すると嘘の様に竜巻が霧散し、魔女だけがその場に取り残される。
再びの驚愕。
みるみる蒼白になるその表情はもはや哀れですらあった。
「たく…不躾な野郎だ…人の質問にはちゃんと答えるもんだゼ!なぁ?少年!」
キッドの横に立つ、先程まで竜巻の中にいた声の主は魔女を指差し言った。
10メートル以上離れた場所から一瞬でここまで移動したらしい。
魔女の不意の攻撃にも関わらず気配すら感じさせず、気付いたらそこにいたのだ。
何より1番驚いているのは魔女の男だろう。
そして、悟るには充分な出来事だった。
「…で、名前は?」
凍り付く男に、再び同じ質問をする。
「…レ…レンブラント…レンブラント=オーショスキーだ。」
何か覚悟したように、素直に男は答えた。
「…聞いたことねぇな…ブラックリストにも載ってねぇし、何だ…小物か。」
がっかりしたように言う。
「アルベルトさん!そういう言い方は…」
「うるせぇなっ!警察からの依頼は安いんだ、厄介なくせに…懸賞金でももらわねぇと割にあわねぇんだっての!こちとら慈善事業じゃねんだよ。」
アルベルトの切なる叫びに、場の緊張感は一気に崩壊した。
「何ですか?それ…それが憧れの一陣の風の魔術士の台詞ですか!?」
「何だ!?てめぇが勝手に憧れてただけだろうが!こちとらずーーーっとこんな風なんで。すんませんねぇ?」
「本当ですね、人間性で偉業は果たされる訳じゃないみたいですね!魔術士としてはすごいのかも知れないけど…人としては最低最悪ですよ!!」
今までの不満が爆発したキッドは、魔女を尻目にアルベルトと口喧嘩を始めた。
「…アルベルト?キッド君?どうした?何があったんだ?」
通信機ごしに聞こえるのは罵声だけ。
遠隔視認魔術によって映し出された映像には、二人が睨み合い、何か言い争っている様が見える。
(どうしたら、魔女討伐で口喧嘩に?)
レイナードは頭を抱えた。