『また夜明けになっちゃった』
その時の表情を色に例えたら、
午前?時の寂しい空の色。
ポストにストッと、新聞が入る。バイクの音がさっていく。
最近毎日聞いている。
私はその日、決心したかのように、携帯を開きメールを見る。
1通1通、ゆっくり読んでから消去していく。
『保護メールを消去しますか?』
と言う文字ばかり出る。
私は1つ深呼吸して、
『はい』
を押した。
駅前で配られたティッシュを握りしめ,何枚も何枚も使う。
私はその日,たくさんの思い出を消去した。
消えていく思い出の分,涙を流す。
家族に気付かれないよう,息をこらす。
震える声をこらえ,震える手を固く握りしめる。
人は時に何の苦も感じないくらい笑う。
人は時に何の幸も感じないくらい泣く。
だからこそ,幸だけ頭に入れておけばいい。どちらもまた巡りくるなら,ちょっとした幸でも,心から喜べばいい。
朝になり,気付けば携帯を握りしめたまま,彼女は寝ていた。
遅刻ギリギリだった。
彼女は家を足早に出た。
その日は朝から眩しいくらいに青く晴れていた。
彼女の足が止まった。
上を見上げ,彼女は少し微笑む。
その時の表情を色に例えたら
優しく柔らかい黄色だった。