私たちは何とか外に這い出し、倒れた。
目が霞んで、ほとんど何も見えなかったが、手探りでハルキの小さな手を掴んだ。
「ハルキ…」
「サヤ姉…ここは外…?」
「そう…私たち…もう自由なんだよ…」
そのとき、白くて冷たいものが舞い落ちてきた。
「サヤ姉…これ何…?」
「雪だよ…」
「雪…?きれいだね…」
雪は、私たちの血で真っ赤に染まった。大量の出血と急激な体温低下のせいで、ハルキの生命は確実に蝕まれていた。
「ハルキ…もう少ししたら…太陽を見れるよ…」
「ほんと?見てみたい…」
しかし、雪は益々強くなってきた。私たちにはもう、この雪を解かす術はない。
「サヤ姉…なんだか暗いや…今は夜なの…?」
「そうよ…」
私は嘘をついた。
ハルキの命が尽きようとしているいる。そして、私も。
しかし、そう思いたくはなかった。私たちはやっと自由になったのだから。
喜びと絶望がごちゃ混ぜになって、私は涙が止まらなくなった。
「サヤ姉…どうしたの…?痛いの…?」
「ううん…」
「サヤ姉…ボクはねぇ…ゆうえんちに行ってみたいんだ…」
「うん…一緒に行こう…」
「約束だよ…」
私たちの体はもう、半分雪に埋もれていた。
あの雲の上には太陽があるはずだ。それなのに、どうしてこんなにも暗くて寒いのだろう。
私たちが求めた“自由”は、こんな場所にはなかったはずだ。
「サヤ姉…」
ハルキの声は、雪にすら掻き消されてしまいそうなほどか細かった。少し間を置いて、ハルキは囁いた。
「ありがとう…」
ハルキはゆっくり目を閉じた。どこか笑っているような表情に見えた。
私は体をよじらせてハルキに近寄り、冷たくなった小さな体を抱き締めた。
私は、何も礼を言われるようなことはしていない。
あのとき、ハルキの脱出作戦を却下していれば、こんなことにはならなかった。
もう、ハルキが無邪気に笑う姿は見れないのだ…そう思うと、ただ苦しかった。