「山口、お前はこっちに来なさい」先生は険しい顔つきで私に手招きした。私は訳が分からなかった。今日は地域の清掃の日で私は保健センター周辺を掃除するはずだったのに。
「先生、私呼び出されるような悪いことしましたか?」不安に満ちた私の声に先生の表情はあいかわらず険しく、淡々とした口調でこう言った。「いや、これはそうゆう呼び出しじゃないんだ」
案内された部屋には私以外に三人の生徒がいた。一年の吉田さんと二年の酒井君、そして同じ三年の黒谷さん。しばらく待っていると校長先生がやってきて名簿を見ながら一人一人の顔と名前を確認すると後についてくるようにと言った。 校長は昇降口から外に出ると校舎の裏にまわった。そこにあったのは神社にあるような見知らぬお堂だった。校舎の裏にひっそりとたたずむそれは不気味としか言いようがなかった。
「校長先生、この中に入るんですか?」そう言った吉田さんの顔はいかにも嫌そうだった。しかし校長はそんなことなどおかまいなしにお堂の扉を開けた。
お堂の中は薄暗く、中央には大きな台があり、その上には棺のような箱が置いてあった。すると校長は真剣な顔つきでこちらを向いて話し始めた。このお堂、お凛堂の話を。ここにはお凛様のミイラが奉られている。お凛様は昔、じつの姉に殺された。その怒りを静めるためにできたのがこのお凛堂。年に一度棺のお札を張り替えなくてはならない。だけど張り替えるのは霊力を持った子どもでなくてはならない。大人は呪われてしまうから。
つまりその霊力を持った子どもが私達。
校長は話し終ると四人ににお札を渡して微笑みながら「大丈夫お札を張り替えるだけだ。簡単なことだよ」そう言った校長の目は冷えきっていた。
お堂の中に入り、中央の棺の前に立った。そして古いお札を新しいものと取り替える。作業は実に簡単だった。帰ろうとして、棺が少し開いていることに気が付いた。おかしい、さっきまで完全に閉まっていたはずなのに。そう思いながらも好奇心が先行して棺を覗きこむ。わたしは愕然としてしまった。そこにあったのはミイラとは似てもにつかない生身の女の姿…。
翌朝、黒谷さんが死体で見つかった。誰かが言った。霊力が足りなかったのだと。
その夜、寝苦しくて目を覚ますと目の前にはお堂で見た女の姿。そう…霊力が足りなかったのは二人、黒谷さんと私……