「今年もこの季節がやって来た……」
夏服で登校してきた泉は、うんざり顔で溜め息をつく。女らしさを強調した桜庭の夏服が青海市周辺をちらつかせる時期が到来したのだ。
「男は男らしく、女は女らしく」なんて杓子定規で生徒を填め込むから、公立高の連中にからかわれるとは言えた空気ではない。頑固で保守的な先生が多く、若い先生が肩身の狭い思いをするからだ。
しかし、泉は容赦しない。
「『良き夫に養われて、子供の成長を生き甲斐にする事が女の幸せ』こそ、最大の杓子定規じゃん?」
「修学館に通うような女の子に専業主婦になる子はいないもんね」
「そうそう! 『有能な私は仕事をするのが当たり前』だから、キャリア志向が高いのよね! コンプレックス丸出し野郎を相手にする気はないんだもん」
泉は男至上主義を毛嫌う女だ。みくが泉に将来の夢を聞いてみる。
「女性中心の会社を興して、アジアを中心に取引するの。そのために外国語は最低2ヶ国語を覚えて、留学して海外の文化に触れて……あとは社会保険労務士と通関士の国家資格は取りたいな」
かなり現実的に自分の将来を考えている。就職さえ出来ればラッキーだと気楽に構える惇とは大違いだ。
夢の実現のために入りたい大学を考えると……?
「まぁ、成成獨國武までなら修学館の子に馬鹿にされずに済むかな?」
「そういうレベルの大学を狙うなら、桜庭に通わないよ、泉ちゃん。推薦狙いでない限りはね。私は国公立大が第一志望だから、滑り止めの私大はセンターで出願出来るとこに絞って選ぼうかしら?」
みくも泉も、泣く泣く桜庭に入って卑屈になる事はなかった。暁も同じだ。志望校に入れなかった悔しさが大学受験の原動力となっているのだ。
学校の古臭い体質に翻弄されても、決して怯む事はない強さが何時の間に身に着いていた。流されたら、そこに居場所はない。
「キャリアの事を考えたら、男に気に病む暇はない。男をねじ伏せる力量も必要だ」
彼女等は学校の古臭い体質を反面教師にして、それぞれの夢に突き進んでいる。