「僕は失恋をした。」
とだけ書かれた手紙。
たった一言だかなぜかとても心に残っていた。
私がこの手紙を拾ったのはほんの数週間前だ。
いつもと違う帰り道を一人歩いていた時道端に落ちている一枚の手紙を見つけた。
普段なら絶対道端に落ちている紙なんて気にしないのに、私は吸い寄せられるように手紙に近づいて、開いてみた。
男性の文字とは思えない程、綺麗に整った字だった。
名前も書いて無くて、もちろん私の知ってる人かどうかも分からなかった。
「なんだ、失恋したのか。」
と私はすぐ丸めて捨ててしまった。
次の日も部活で遅くなってしまい暗い夜道を急いで帰っている時ふとあの手紙が気になって、昨日と同じ道を帰った。
手紙は昨日私が丸めて捨てた場所にはもう無くて私は
「風で飛んでいってしまったのかな?でも私には関係無い」
と自宅へと急いだ。
家に帰ると母親が
「遅かったね。お風呂、先に入ってきなさい。」
と言ったので、私はお風呂に入る事にした。
湯船の中で鼻唄なんか歌っていたら不意にあの手紙の事を思い出した。
「誰だったんだろう…」
体を洗っている間も頭を洗っている間もずっと頭にその疑問が浮かんでは消え、また消えては浮かんでいた…。
お風呂から出ると食卓には晩御飯が準備されていた。
また考えながらご飯を食べていると母親が
「学校で何かあったの?」
と聞いてきた。
「どうして?」
と聞くと母は
「何か考え込んでる様だから。」
と言った。
私はこの時、初めていつもと違うなと思った。
次の日、用事があるからと部活を休んで、あの手紙を探す事にした。
でもそれはあまり手間がかからなかった。
捨てた場所からほんの数メートルの所にあったからだ。
あの時はすぐに丸めて捨ててしまっていたから気がつかなかったが、よく見ると裏に、
「郷田 政」
と書かれていた。
「郷田…?聞いた事無いな。」
それから家に帰って親友の百合に「郷田 政って知ってる?」
と聞いてみると、彼は隣の組で一番かっこいいと噂の男の子だった。
部活でいっぱいいっぱいの私は男の子の話など全くと言っていい程しなかったので知らなかったのだ。