一陣の風 第一章「夢見る少年と異端の紅い十字架?」

姫乃 真咲  2007-11-19投稿
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徐々に集まり始める人だかりにキッドはなりふり構わず、叫んだ。
「皆さん!僕は公認の魔術士です!現在、追跡中の魔術事件容疑者…魔女をそのビルの一室に追い詰めました!僕の上司と魔女の魔術戦闘が間もなく激化し、周囲を巻き込む恐れがあります!速やかに、そのビルの前方及び周辺から避難して下さい!!」
耳に聞こえてくる声をなぞり、そのまま繰り返す。
立ち上る黒煙を見詰め、アルベルトの安否を気にしつつも、今は一般人を巻き込まないようにすることが大事だと、必死に人払いをする。
(僕に出来るのは、犠牲者を増やさないように、最善を尽くすことだ!アルベルトさんは、きっと自分で何とかするはずだから!!)



「…聞こえるか?爆弾魔ァ…!」
俯きながら、魔女の方を見遣り、
「見事だな…えぇ?頭が下がるぜ、その変態ぶりにゃあよぉぉ…!」
弱々しいうめき声とは裏腹に、その言葉は間違いなく心に刺さるトゲを持っていた。
ピクリと魔女の動きが止まる。
「相変わらず、口がへらねぇな…あんたは。」
静かに告げる。
「ちょっと待て?俺はお前のことなんかしらねぇぞ?今日初めて…」
「ああ…会ったのは初めてだ。でも俺はあんたを知っている。いや…しらねぇ奴のが少ないね、一陣の風のアルベルトって言ったら、魔術士の中では有名だ…。」
男は振り返った。と、言っても辺りを包む黒煙で見えはしないが。
「噂や功績は、5万と聞いたし、直接は無くても間接的になら話したこともある。…そんなことはどうでもいいか…。」
懐かしそうに喋り出したと思ったら、突然淋しげな口調になり、
「あんたを殺したくは無かった。が、これま命令だ。本当はこの部屋も使うつもり無かったが…流石は彼の有名なアルベルトさんって訳だ。俺の腕では殺せなかった…初めの一撃で終わるはず…だったんだが。保険にこの部屋を用意しておいて良かった!」
最期には好奇な態度で。
「始めっから、俺を殺すためだけに全て計画していたってのか?ご苦労なこった…わざわざ七面倒くさいことしねぇで正面からかかってこりゃいいもんを。」
アルベルトは呆れ返りながら、その奥に沸き上がるものを静かに噛み締めながら。
「余っ計な犠牲者だって出さずに済んだのによぉっ!!」

その瞬間、重苦しかった空気が軽く爽やかに流れ始めるのを魔女は微かに感じていた。



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